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大阪肥後橋のTailor Armory

Tailor Armory

安すぎるだろ、と同業者から叱られた掘り出し物生地

またブログ更新の間が空いてしまいました。

まるで夏休みの宿題のようになかなか取りかからない弊店のブログですが、机に座りノートを広げてしまえばもう宿題は終わったようなものです。

あとは一気に書き上げるのみ。

さて、さっそく本題ですが、スーツやジャケット等をオーダーいただく際にはバンチブック(生地見本帳)をパラパラとめくって生地を選ぶのが一般的な方法ですが、他に「着分生地」と呼ばれる一着分限定のカット済み生地から選んでいただく場合もございます。

この着分生地、破格のプライスでお仕立て可能な掘り出し物もけっこうあります。

なにぶんカット済みのものですのでお身体の大きい方やスリーピース、ダブル等デザインによっては承れない場合がありますが、弊店ではスリーピースご希望の方が多いため、案外すぐ売れずに残っていたりします。

百聞は一見に如かず。いくつかありますがまずはこちらをご覧ください。

Scabal Super 120's 100%Wool

シングルスーツお仕立て価格

¥61,600(スタンダード仕立て)

¥93,500(プレミアム仕立て)

※手前のブラック織柄はもうありません。奥のダークブラウン無地のみです。

タイトルにある「安すぎるだろ、と同業者から叱られた」というのはこれをInstagramストーリーズに載せた際のことでした。

通常コレクションから選ぶと倍以上かかってもおかしくないクオリティのものであり当然のお声だと思いますので、少し説明をば。

スーツのお仕立て価格は基本的な計算式として、(縫製工賃+生地仕入れ価格)÷原価率=販売上代 となっています。

このうち縫製工賃はシングル上下、3P、ダブル等のデザインによって変わり、生地が何であれそれによってはほぼ変わりません。

生地仕入れ価格はその生地の(メートル単価×要尺)となっています。要尺とはそのスーツ一着縫うのに必要な尺です。

要尺はお客様の体格とデザイン(シングル上下、3P、ダブル等)、生地の柄により変わります。例えば私で、無地の生地でシングル上下を仕立てる場合で2.9m必要です。スリーピースだと3.2m、さらにチェック柄だと柄の大きさにもよりますが3.4mといった具合です。体の大きい方だともっと必要です。

私の場合、m単価¥5,000の無地の生地でスリーピースだと生地仕入れ価格¥16,000になるわけですね。

受注の際はお客様にバンチブック(生地見本帳)から生地を選んでもらい、デザインを決め、採寸をして要尺を割り出します。そして生地商社に発注するのですが、この後に何らかの事情でキャンセルになることが稀にあり、そうなると発注した要尺でカットされた生地が在庫として残ってしまいます。

長く営業している仕立て屋や生地屋ほどこうした在庫生地をずっと持っている場合があります。鮮魚ではないので切ったからといって何ら鮮度は変わりませんし、置いていて質が悪くなるものでもありません。しかし尺は不揃いで売りにくいものであるのは事実です。こうしたものが生地屋さんや同業の仕立て屋さんの倉庫に眠っているのを見つけて、格安で買いつけてくるのです。

先方からしても在庫の消化になり、こちらとしてはいい生地を安く手に入れられ、お客様は破格のプライスでいいスーツを買える、三方よしになるわけですね。

さあ、まだまだありますので、どんどんいきましょう。

Ariston 85%wool 15%mohair 尺3.55m(大柄な方以外は3P可能です)

シングルスーツお仕立て価格

¥61,600(スタンダード仕立て)

¥93,500(プレミアム仕立て)

Ermenegildo Zegna 100%Wool

シングルスーツお仕立て価格

¥61,600(スタンダード仕立て)

¥93,500(プレミアム仕立て)

ヴィンテージのゼニアです。

どのぐらいのヴィンテージかはわかりませんが、かなりの年代物であることは間違いありません。今とはロゴの入り方も違い、またオーストリッチのような独特の柄といい生地感、色といい、今のゼニアの「高級感・光沢」というイメージとはかけ離れています。

加えてこれは2.9mしかありません。私ぐらいの体格までの人でないとお仕立てできない尺です。

これはある老舗の仕立て屋が在庫として持っていたのを流してもらったものです。この短い尺も歴史を物語ります。

どういうことかというと、この業界で長くやられている先達はご存じだと思いますが、要尺は昔の方が短かったのです。

生地を広げ、型紙(パターン)をあてて、裁断する。これに必要な尺が要尺です。この時型紙の寸法より小さくては使い物になりませんし、大きすぎては高価な生地を無駄にしてしまいます。

そのため採寸士がお客のギリギリの寸法を見抜き、裁断士がそれに合わせ無駄なく裁断するのですが、現在ではCAMの機械裁断が主流です。弊店でもチェック柄以外は機械裁断です。

当然機械の方が効率は上がりますが、熟練の職人の裁断ほど「ギリギリ」を攻めないので、全体的に要尺は伸びる傾向になります。私がこの業界に入った十数年前と今で比較しても、20~30センチは平均して伸びたように思います。

つまりそういうことからもこのヴィンテージのゼニアがいかに売りにくい商材かおわかりいただける(?)かと思いますが、

我こそはという小柄な方、お待ちしております笑

Harrisons "Indigo"

80%Wool 20%Linen

シングルジャケットお仕立て価格

¥67,100(スタンダード仕立て)

¥88,000(プレミアム仕立て)

英国の雄Harrisons(ハリソンズ)のウール&リネンコレクションIndigo。

クリアランス価格で買いつけたもので、同色のブラウン無地と二点ありましたが残はこのブラウンチェック一点、ジャケット一着分のみ。

Martin Sons & Co

Made in Huddersfield England

99%Super 120's Wool & 1%Cashmere

シングルスーツお仕立て価格

¥56,100(スタンダード仕立て)

¥88,000(プレミアム仕立て)

スーツ生地に一家言ある人からすれば、「マーチンソンといえばフレスコ」「マーチンソンといえばフランネル」といったお声があると思います。

これはスーパー120'sという細い繊維を織り上げ、カシミヤを1%ブレンドした生地なんですが、

マーチンソンらしいざっくりした風合い、通気性の良い生地感と滑らかな手触りがいい塩梅にミックスされています。

生地屋さんの倉庫で見て、マーチンソンでこんなのあるんだ!?となって、仕入れたものです。

これはネイビーとグレーもありましたが、残はブラウン一点のみとなりました。

H.Lesser & Sons 100% Super 150's wool

シングルスーツお仕立て価格

¥105,600(スタンダード仕立て)

¥139,700(プレミアム仕立て)

チャールズ国王も愛用するといわれる英国の高級生地ブランドH.Lesser & Sonsの、スーパー150'sのプリンスオブウェールズ柄の生地。

プリンスオブウェールズとは、グレンチェックにブルーのラインが乗っている柄のことで、その名の通り英国皇太子ウェールズ公から名づけられた柄です。

For The Discerning Man. (違いのわかる男に) と、織ネーム(ラベル)に書かれています。

2着分7.2mのみをクリアランス価格で買いつけ、残は3.4m。小柄な方ならスリーピース可能な尺です。

Dormeuilのヴィンテージのモヘヤ混。

これを目にした時は震えました。今とはブランドタグも違い、相当な年代物であることが窺えます。

モヘヤはシャリっとした肌触りと清涼感、粒だったような独特の光沢が特徴で、冬のカシミヤ・夏のモヘヤというように高級素材の代表格とされます。

混率があがるとそれに伴い価格もあがります。

これも通常とは違うルートから入手したものなのでスペック詳細がないのですが、手触りから半分近い混率であることは疑いありません。

しかもドーメル。ここまでご紹介してきた他のものは、破格でお仕立てできることがメリットではあっても入手困難ではないものだったりしますが、これは違います。

こんな代物はそうそう出てこないと思います。なぜこれのご紹介を最後にしたかというと紹介したくなかったからです。私が作りたいんです笑

シングルスーツお仕立て価格

¥90,200

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回ご紹介したのは全て一点ものですので、もしこのブログをご覧になりお越しになったとしても、なくなっている可能性もございます。

あしからずご了承ください。

ぜひ店頭にてご覧ください。お待ちしております。