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大阪肥後橋のTailor Armory

Tailor Armory

ヴィンテージ生地でのお仕立て

約40年前のヴィンテージファブリックを持ち込みいただき、スーツをお仕立てしました。

ご注文主のご両親の成婚時に結納返しとして背広(あえてこう書きます)の生地が贈られ、その際には仕立てず、その生地はずっとしまわれていたそうです。

そして、持ち込み生地での仕立てはやってくれるのかという問い合わせをした上で、ご子息が注文主として弊店に生地をご持参くださいました。

生地は、食品などと違い期限があるものではないので、基本的には古かろうが新しかろうがそれによって質が左右されるわけではありません。

ただ、やはり数十年の時を経るとトレンドなども大きく変わるもので、古いものは色・柄・生地感などに独特の雰囲気がある良い生地が多いです。

実際、当時のままであろう桐の箱から恭しく取り出された生地を見た時には、ため息が出ました。

そして言いました。「めっちゃ良い生地じゃないですか。本当にこれ、お預かりしていいんですか?」と。

稀にではありますが「生地を持ち込んでのオーダーは可能か」という依頼をいただくことがあります。

基本的には尺さえ足りていれば、お仕立て自体は可能です。

尺が足りない場合というのは、古い生地であり得ます。

要尺といって、そのスーツ一着縫うのに必要な尺をそう呼びます。

この業界で長くやられている先達はご存じだと思いますが、要尺は昔の方が短かったです。

生地を広げ、型紙(パターン)をあてて、裁断する。これに必要な尺が要尺です。この時型紙の寸法より小さく生地を発注しては使い物になりませんし、大きすぎては高価な生地を無駄にしてしまいます。

そのため採寸士がお客のギリギリの寸法を見抜き裁断士がそれに合わせ無駄なく裁断するのですが、現在はCAMの機械裁断が主流です。弊店でもチェック柄以外は機械です。

機械の方が効率は上がりコストも下げられますが、熟練の職人の裁断ほどギリギリを攻めないので全体的に要尺は伸びる傾向になります。

私がこの業界に入った十数年前と今で比較しても、20~30センチは平均して伸びたように思います。

つまりこうした理由から、お持ちの生地が古いものである場合に要尺が足りずお受けできないということが起こり得ます。

また経年変化の問題もあります。

これに関しては着ていての経年劣化である摩耗や日焼けのような目に見える変化と違い、組織内部で起きている可能性があります。

生地の水分や油分が抜けてパサついた質感になっている場合、その生地で仕立てると耐久性が高くなく、裂けやすいといったリスクが考えられます。

ただ、こうしたデメリットやリスクは差し置いてもヴィンテージ生地には今のものにはない色・柄・素材感などの魅力があり、何よりもそれで仕立てることの「ロマン」があります。

果たしてお仕立てしたスーツは非常に美しい出来になりました。

ブルーグレーのような微妙な色合い、少し変化を持たせたストライプと現行品にはない、味わい深い雰囲気に溢れています。

またお客様には「手に持つと重いのに、着ると軽い。着心地も柔らかい。」と言っていただけました。

生地自体は年代物の特徴か、ウェイトがありそう柔らかくはありませんでした。

従って完成品のスーツも、がっしりとした重みのあるものになっています。

着て軽く、柔らかく感じるのはお身体に沿うようお仕立てしているからです。

重量があっても、身体にバランス良く乗る服は重く感じません。

スポーツマン体型で、肩が凝ったりきつく感じてスーツは好きじゃないと仰せのお客様が「着たくなる」ようなお仕立てを意識しました。

それを少しでも感じていただけていれば幸甚です。

この度は貴重な生地をお預けいただき仕事をさせていただけ、ありがとうございます。

ぜひご愛用ください。